睡眠環境学会 発表原稿 1
こちらは足利工業大学 小林敏孝教授、荒川一成講師のご指導のもとに第16回睡眠環境シンポジウムで発表いたしました際の資料です。
【枕の高さに対する考察】
1. はじめに
褥瘡とは「長い時間にわたって軟部組織に圧迫が加わり、その結果局所に循環障害が起こり壊死や潰瘍をきたした状態」と定義されている1)。 この定義からして褥瘡は人類発生依頼の症状と考察されるが近代日本の高齢化と福祉の向上により、福祉社会の重大関心事となっている。
褥瘡予防の為にいろいろな寝具,補助寝具が開発されている。【体圧分散寝具の分類方法】2)に【Bryantの分類】の中に詳細に発表されている。それによると除圧用具と減圧用具とに分類され、自力での体重移動もできない患者には除圧用具が必要であるが高価なため、全ての必要な患者に提供することは難しい。また、減圧用具は沢山あるが基本的には定期的な体位交換看護が重要である。
体位交換にあたり、 横臥姿勢における肩部の存在の為に 十分な体位交換が成されていないのが現状である。この欠点を改良して、ある特別養護老人ホ-ムにて試用し、思わぬ良い結果を得たので発表し、報告する。
2.仰臥位と横臥位の頭の位置
寝返りをするときの頭の位置について、のデータ-については定かではないが、掛け布団を掛けて休む時のことを考えると、暖かい空気を逃さないよう、 横臥位と仰臥位の頭の位置はほとんど同じ 場合いが多いと考えられる。
3.従来の枕の高さについて
枕の高さについての考察 枕の高さについては多くの研 究が成されている3)、4)、5)。一般には仰臥姿勢における枕の高さを標準としていると考えられる。これは入睡時に仰臥姿勢が多く、又時間が長い為、(仰臥姿勢、43%、右下横臥位、37%、左下横臥位、20%)と考察される6)。
業界では、枕の高さは仰臥姿勢の頚椎弧の高さを標順としている。横臥位のデ-タ-はあまり検討されてない。 仰臥と横臥位を一晩に十数回寝返りして いる 6) という、事実を考えると両体位の枕の高さを比較、考慮することは意義のあることである。そこで、身近な人の仰臥位と横臥位の枕の高さを測定して みた。(表-1)
3-1 測定方法
- 沈み込みを考慮しない為、畳、ゆか、ジュウタンの上で測定する。
- 後頭部の高さは、600*350*10の硬質ウレタンホ ームを重ね、快適と感じた高さとする。
- 椎弧の高さは【図-1】の(c)の高さをそれぞれ10、20、30、40ミリメ-トルとし、 快適な高さをもって、高さとする。
Sab | O | h | hc | H | S | H—S |
A | 1.36 | 5 | 6 | 10 | 6.0 | 4.0 |
B | 1.02 | 5 | 7 | 9 | 7.0 | 2.0 |
C | 1.15 | 4 | 6 | 9 | 5.0 | 4.0 |
D | 1.26 | 5 | 8 | 9 | 5.5 | 3.5 |
E | 1.05 | 5 | 7 | 8 | 5.5 | 2.5 |
F | 1.06 | 3 | 5 | 8 | 6.0 | 2.0 |
G | 1.03 | 4 | 7 | 9 | 4.5 | 4.5 |
成人男子 20代、2名 40代、2名 50代、3名O;肥満度=体重/身長*身長*22
h;仰臥位の後頭部の高さ
hc;仰臥位の頚椎弧の高さ=h+c
H;横臥位の側頭部の高さ
S;肩の厚さ=(p-r)/2【図-2】参照
【図-2】
p:肩幅
q:頭の幅
r:胸巾
S:肩の厚さ S=(p-r)/2
H:側頭部の枕の高さ H=(p-q)/2
3-2 表-1 についての考察
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測定方法により(布団の沈み込みが無いため)、実際より、高い数値であるが意外と後頭部の高さがたかい。
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頚椎弧の高さ(c)は形状により1~3cm。
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横臥位の側頭部の高さ(H) は肩部の存在の為、 仰臥位後頭部の高さ(h)に比べると非常に高い。
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側頭部の理論的高さH’は図-2に示した、H’=(p-q)/2±α である。
αはストレスのない範囲で頭部が傾いている高さ、でおよそ、3cm前後までと思われる。 -
表で最も注目すべき数値は【H-S】である。一見、2cmから6cmと大きな差があり 関係ないように見えるが、前項4の(α)値を考慮して、仰臥位の後頭部の高さ(h)と見比べると同じ数値となる。
-
仰臥位の適正、快適な枕と肩の沈み込みを考慮し、従来の敷布団、マットレス、スプリングベッド等を改良すれば横臥位の枕は同じでもよく、横臥位でも適正、 快適な高さの枕である。
現状では体位交換にあたり、 横臥姿勢が不安定 な為、介護する人もされる人も苦渋に満ちた日々を過ごしている。
- 半うつぶせ姿勢
肩への圧力を逃れるために、肩部を極端に折り曲げ、敷布団と背の角度が鈍角になる姿勢。肩への圧力を避けようとしても肩から上腕部にかけての圧力は避けられず、腕への血流障害をおこさないまでも、長時間同じ姿勢を保つことは難しい。 - 正規の横臥姿勢
体圧分布の研究で体圧分布図1)を見るとよく理解出来るが、背と敷布団との角度がほぼ垂直となる姿勢。枕の高さにもよるが、肩部への圧力は非常に大きくなり、不安定で長時間の維持は難しい。 - 仰臥に近い姿勢
背と敷布団の角度が鋭角になる姿勢。肩部への圧力は非常に小さいが 仰臥姿勢になりやすく、尾骨、仙骨付近に褥瘡のある人には介護する人も、される人も大変な姿勢。臀部付近の褥瘡のあたりと寝具が接触しやすく、なかなか高い体圧から解放されず、直りにくい。
これまでも懸命に体位交換、その他のあらゆる介護をしてきたがなおらなかった。試用して3ヶ月後、横臥姿勢が安定して、体位交換もスム-スに行われ非常に良い方向に向いているとの話であった。
約6ヶ月後、この報告所を書くのにあたり初めて、患部を見ると、(始めは、ただMさんが助かり、介護する人も助かればという動機であり、効果も不確かであった為に、デ-タ-として記録していない。)左右仙骨上部に外径はおよそ8~9cmのほぼ円形のポケット(穿窟性洞)の痕跡、中央に小円があり、その径およそ4cmのクレ-タ-の痕跡があり、「クレ-タ-より一部骨が見えていた」とも介護した人から聞いた、あきらかにNPUAPの分類、「Stage4」の最悪の状態であったと推察される1)。
ポケット部は完全にふさがり、中央のクレ-タ-の痕は白い脂肪状で表面に薄い皮膚が組成されていた。
7.横臥姿勢の体圧分散の考察
改良マットレスがこの様に良い結果を得られたのは安定した横臥姿勢が肩部の沈み込みにより、容易に得られ、なお敷布団との接触面積が非常に大きくなり、体圧の分散がうまく出来た為と考察される。【図-4】のイラスト図の太線部分に均一に体圧がかかり、理想的な横臥姿勢が出来、患者のストレスもなく、長時間の横臥姿勢も保持できるようになり、体位交換が楽に行われ、患者にも、看護する人にも良い結果が得られた |
4改良マットレスの |
今後の福祉社会、老人介護に携わる人々に少しでも役立つよう研究し、まだまだ改良していこうと思います。